陶器製の魔除けを買ったものの、これは夫への土産として適当だとは思えなかった。私の夫は大学で数学を教えている。
仕事の合間には胡弓( 中国では二胡とよぶ )を弾いている。最近は仕事が忙しくて弾いているのを見たことがない。
若いときから夫はいろいろな海外の楽器や、レコードを買うのが好きだった。そこで私は、ホテルの近くの街角で、トルコの民族音楽の CD を探そうと思った。
しかし、トルコに来てから今まで楽器店を見ていない。
私はスルタン・アフメット通りを歩きながら、どこかの店で CD を売っていないかと思った。
すぐに一軒の書店を見つけた。
半地下式の店内の壁際には書棚があるが、中央部には書棚が置かれていない。ホテルのロビーのように広々としている。
私は店に入るとすぐに、カウンターに近づいて、ヨーロッパ系の男性に言った。「音楽テープはありますか? トルコの民族音楽なんかの?」
彼はすぐにカウンターから一つの箱を取り上げて、「ありますよ! これなどは観光客の方に人気ですよ」
私は CD の細かい内容は分からなかったが、彼に任せるしかないと思って、それを買った。50ユーロ支払って、40トルコリラのお釣りを受け取った。
彼はもう一つの箱を見せて、「こちらの方のミュージックは若い人に人気ですよ。New music !」
そこでその箱も買った。どちらの箱も CD の5枚セットだった。
帰国後、夫に渡すと、夫はこの CD が気に入った様子で、すぐに自分のパソコンに保存した。パソコンの速度が非常に遅くて、実際に音楽を聴くのと同じ時間かかってしまい、十何時間もかかってしまった。
夫の部屋からは低い音で、変化のない音楽が聞こえてきた。
私は夫に聞いてみた。
「 CD の音楽はどれも単調に聞こえるんだけれど、あなたの好きな音楽も収録されていたの?」
私の買った CD のタイトルは〈 World of the Dervish 〉と〈Istanbul senfonisi〉でいずれも〈Akustik Muzik〉から出ているものだった。
前者の5枚の音楽はすべてトルコの古典楽器の演奏で、演奏の腕前は相当なものだ。しかし、聞き慣れていないトルコの音楽は、独奏の時間が長くて、単調に思えてしまった。
しかし、その中の一枚は、初めの部分がイスラム教寺院の男性の独唱で、後の方にモスクの礼拝の実況が録音されている。
一人の男性がコーランを謡う。と別の男性が礼拝に参列したアラビア語の分からない人のために英語で通訳しているのが入っている。
臨場感満点で、面白い。
後者の5枚の CD はトルコ特有の楽器と西洋楽器の合奏だ。
旋律の一部分は有名な映画「禁じられた遊び」の主題曲で、古典と流行の組み合わされたところが、聞きやすい。
もしも、これらの音楽を評価しようとするなら、長時間必要だし、しっかりした鑑賞能力がいるだろう。音楽のことはよく分からない私でも、演奏技術は高い水準、作曲もいいと思った。一流の音楽だろう。
しかし、私は中東の独特の節回しの流行歌が好きだ。特に歌声がいい。
買った CD のなかに流行歌が入っていないのが残念だ。
ガイドブックには、「トルコ土産の店には流行歌の CD が置かれています。旅行の記念に是非一枚買うのも良い!」とある。帰国後このくだりを読んだが、すでに時遅し!
パソコンでは配信業者を通して、世界中の音楽から簡単に好きな物をダウンロードできるというが、自分で行ってトルコの店で珍しい音楽の CD を買った方が、パソコンでダウンロードするよりも絶対良いよね。