スプーン売りのダイヤモンドがピンク色を帯びているのに気がついた。NHKの番組によるとこのダイヤは皇帝の指輪だと言っていた。
面白くないことが一つあった。
私がダイヤを見ているときに息子が私と一緒にいてくれないことだ。息子はいつでも好き勝手に一人で見るのが好きだ。
宝物博物館を見終わってから、第三庭を散歩した。
その後で、他の博物館の展示室を見たいと思った。
息子は皇帝の衣服を見たいと言った。そこで私たちは衣服の展示室に入った。
見終わってまた庭に出ると、今度は陶磁器と絵画を見たいと思った。
しかし、観光客の姿がいつの間にか消えている。
男と女の二人の博物館の職員が展示室の回廊に現れて、次々とドアに鍵をかけていく。
「今まだ4時なのにもう閉館なの?」
5時には宮殿は閉館する。だから宮殿内の展示室は4時に参観停止となる。私は残念だった。
しかし他に見ることのできる物は何かないの?
そこで私たちは第二庭に戻った。
現在4時で、幸福の門の前にはまだ大勢の人がいた。そのなかに一人の後ろ姿が美しい欧米女性がいた。彼女は背中が露出したマキシ丈の白いドレスを着ていた。まるで夜のパーティーにでも行くようだ。
欧米の女の人は常々タンクトップとショートパンツを穿く。しかし時々このような目一杯オシャレをした女性を見かける。彼女は大切な人といっしょに来たのだろう。
どうして観光客が幸福の門の前に集まっているのだろう?
中央のひさしの天井には、皇帝の存在を表示する黄金の装飾が施されている。ガイドはみんな、ここで観光客に解説をしたがるのだ。
博物館に閉め出された私たちは、第二庭の東の回廊に行った。
回廊の東の建物の屋根の上には、数個の大きな煙突がついている。それはアメリカの有名なスリーマイル島の原子力発電所の先端を切ったホーンの形に似ている。
この建物は厨房で、その中には非常にたくさんの竈(かまど)があるそうだ。現在でも往時のように、たくさんの巨大な鍋が載っている。聞くところによると、往時は何百人ものコックがいて、その厨房で毎日何千人分もの料理を作っていたという。
また宮廷に供される菓子のすべてを作る厨房があり、6人のチーフパティシエが百人のスタッフを使って下ごしらえをさせた。冬はキャンディー、そのほか宮廷用一口菓子やフカのプディングが有名。イスラムの暦に従って菓子を漬け込むシロップの種類が変えられた。
スウィーツはスルタンを初めとして大臣、家臣に供された。
私たちが厨房のドアに近づいたちょうどその時、二人の職員が話ながらやって来て、しかし急いでいる様子で私たちの目の前の入口に鍵をかけてしまった。なんだ、厨房も4時におしまいなのか。
「残念だなあ!」
ガイドブックでは夏期は入館時間は9時から6時まで。ハーレムは9時半から5時までと書かれている。しかし実際のところ、博物館の営業時間はガイドブックの通りではない。
私たちは厨房を見られず、やむなく第一庭と第二庭の間の入口の所に戻った。
私は博物館の記念品を売る商店で、トプカプ宮殿のガイドブックを探した。
息子の方は巨大なガラスのケースの中の宮殿の模型を見ていた。
息子は観光で建物を見るときは興味がなさそうなのに、模型を見るときには離れるのも嫌なようだ。
私は庭に水道水の蛇口を見つけた。
そこで手を洗い、口をすすごうと思った。
ところが私の後ろに二人の若い女の人たちがいた。
私は口をゆすぐのを躊躇(ちゅうちょ)した。彼女らが私の動作を好ましくないものを見るようにしていたからだ。
ここでは口を漱ぐのはマナー違反なのだろうか?
イスラム教徒は礼拝の前に手を洗い足を洗い、口を漱ぐではないか?
私は分からなくなった。