飛行機は1時間の飛行の後に、イスタンブールに着いた。
空は夕焼けに染まっていた。
飛行機を降りると、私たちは送迎用のバスに乗って、空港のターミナルに着いた。
入国審査はないので、すぐに空港の外に出られるだろう。
自分の荷物を受け取った。
今回も初めてトルコに来たときと同じで、旅行社のお迎えのスタッフが出口の所で待っていた。
彼は私たちを空港ターミナルビルの入口に連れて行ったが、手配した車はまだ来ない。
私たち三人は話もせずに車を待って立っていた。
この時私は一人の肥ったお年寄りが、両目を少しも瞬きせずに立っているのに気が付いた。お年寄りのそばには1立方メートルもあろうかというスーツケースが一つ置かれている。
私には、お年寄りが一人でここまで運んだとは思えなかった。
お年寄りは目が不自由のようだ。
彼の顔には何の表情も見られないが、目の中には不安の色が認められた。
多分知らない土地にいる不安だろう。
誰もこの老人を迎えに来ないのだろうか?
私は、旅行社のスタッフに、「ねえ、見て見て!あのお年寄りは困っているようだけど。あなた助けてやってよ!」と言った。
スタッフはとっくにお年寄りが困っている様子に気付いていると思ったからだ。
しかし、彼には私たちをホテルまで送る務めがある。他の人を助けるために使う時間はないと思っているのだろうか。
彼はちらりとお年寄りを見たが、すぐに車の来る方向を見て、何も言わなかった。
彼はもともと知らない人を助ける気などないのだ。
一台の白い車が来ると、スタッフは運転手の隣りに乗り込んだ。
彼は多分、私たちと一緒にホテルまで行くのだ。
車は私たちが初めてイスタンブールに来たときとは違う市街地の道路を進んだ。
街は混雑していた。今はラッシュアワーなのだ。
どうして海岸沿いの道路を行かないのだろう。
交通渋滞のために、車はのろのろと進んでいたが、突然とまった。
スタッフは私たちに何の挨拶もせずに車を降りていった。
彼はもとから急いで家に帰りたいか、デートに行くつもりだったのだ。よその人の面倒を見る気はさらさらなかったのだろう。
運転手は彼を送るために、こんな渋滞のときに、市街地を走っていたのだ。私は降りていったスタッフに良い印象を持てなかった。
車は曲がって海岸通りに出た。
海浜公園を見て、アジアサイドのバス旅行に出かけるとき、ここでバスを待っていたんだなあと、あの時のことを思い出した。
私は黒々としたマルマラ海を航行する船舶の明かりを見ていた。
そして、バス旅行に出発したのは遠い遠い昔だったように感じた。
突然車は曲がって、坂道を上り、すぐにホテルに着いた。
ホテルのフロントの係は私たちと面識のある人だった。
彼は旅行社がスーツケースをホテルに届けてくれていると言った。
私たちは鍵を受け取ると、小さなエレベーターに乗って、6階の部屋に着いた。
この部屋は、東向きだったが、窓は小さかった。
カーテンも調度品も美しい。
部屋の隅にはとても大きな液晶テレビが一台置かれていた。
シャワーを浴びて、衣服の整理をしていると、私たちにはすでにお馴染みのイスラム教寺院の礼拝予告(アザーン)の歌声が聞こえた。