古代の図書館の見学の後で、ガイドは再び私たちに、大劇場の自由観光の時間をくれた。今度は私たちは遺跡の北門のバス停に集合しなければならない。
そこで私と息子は大劇場を見るために、大劇場(シアター)の下にやって来た。そのそばには起重機が置かれてあり、今まさに劇場の階段席の修復に当たっているように見えた。
この劇場の規模は大きくて、私は初めからてんで登る気持ちになれなかった。
しかし息子は言った。
「お母さんはここで待ってて! それでここに立っててよ! 」
息子は一人で勇ましい足取りで劇場に向かった。
しかし私は疲れていたので、傘を差して立った状態で辺りの景色を観察した。
大劇場の前の広場にはたくさんの観光客がいた。
大劇場から古代の船着き場(現在は堆積物に埋まって陸地化している)に通じる大通りを歩いて行く者もいれば、広場に立って大劇場を仰ぎ見る者もいる。また、松林の中の小道をどこに向かっていくのか、歩いて行く者もいる。
少したって、息子が私の所へ戻ってきて、劇場の上で面白い写真を撮ったよと言った。
一人で面白がっているようだ。
そのうち息子は秘密を隠していることができずに、私にデジタルカメラの映像を見せた。
劇場の上から撮った写真にごく小さく写っている観光客の真ん中に、傘を差した人影が映っている。それは私だった。
私たちは集合場所に向かった。
私たちは北門への道を知らなかったが、大勢の人たちが歩いて行く方角が多分駐車場だろう。
松林の脇の道を歩いているとき、息子とはぐれてしまった。私は心配したが、息子は一人で集合地点に行くことができるだろう。
とうとう私が北門にたどり着いたとき、ガイドがゲートで待っていた。私は彼の顔を見たが、怒っていないようだ。
もしも息子が道に迷ったと聞けば、ガイドは怒り出すかもしれない。
私は、息子の姿はないかと辺りをキョロキョロと探した。
私の心配をよそに、ガイドは笑いながら言った。
「息子さんはもうここに来ていますよ。心配しないで!」
私の方はもうちょっとでまたガイドに怒られるんじゃないかと思った。
集合時間まであと10分ぐらいあったので、店に行って買い物をしてきても良いかとたずねた。
ガイドは良いと言ったので、ガイドブックを見に行った。
英語、日本語、どんな言語の本もそろっていた。
私が注目したのは英語の本だった。本を開くと、見開きの左右のページにエフェソスの遺跡の航空写真が載っていた。価格は比較的高くて、(85トルコリラ、4000円相当)で、しかもとても重い。
しかしこの本を一目見れば、エフェソスの全体像がわかる。それで私はこの本を買った。
私たちはバスに乗って、一軒のレストランに行き、昼ご飯を食べた。
ここはカフェテリアだった。私たちは料理のカウンターの横で、一列に並ばなければならなかった。
今回は私は淡泊な物が食べたかった。
そこで私はジュース絞り器の前で、従業員にオレンジジュースと乳酸飲料を一杯ずつ頼んだのだが、その場で支払いを要求された。飲み物は追加料金がいるのだろう。
食事の後で、私と息子はレストランのお土産コーナーで、フルーツの形をした石けんを見つけた。
店の角の椅子に若い女の人が座っていて、二本の編み棒を使って、毛糸で何かを編んでいた。彼女はこのレストランの従業員か、あるいはオーナーの家族だろう。
私はフルーツの石けんを買いたいと言った。
彼女は石けんを手に取ると、店のほかの場所に包装しに行ってしまった。
そのとき、ガイドがやって来た。
彼は私たちをバスに乗せようと、ひどく急いでいるように見えた。
私はガイドに今買い物をしているところだと言おうと思ったが、私が言ったのは、「Soap (石けん)」という英単語だった。ガイドは事情がわからず、もう一歩で怒り出しそうだった。
そのとき女店員が私たちの所に戻ってきたので、ガイドはようやく状況を理解したのである。