外は大変暑いのだが、石材の壁に囲まれている地下道は涼しい。
地下道を通り抜けると、石壁でできた円形の部屋に着いた。中央に石材を積み上げて造った柱があった。
私が想像するにこの部屋の中には放射状に十幾つかの寝台が置かれていたのではないか。しかし、本当の所、この円形の建物は治療棟だという。とすると患者の寝るためのベッドはなかったのかもしれない。
私たちは、15分ぐらいの間、この半分壊れた建物の中を見た。10人ぐらいの小さなグループだったので、治療棟を見学するときも騒がしいおしゃべりの声はなかった。それが私たちに古代ギリシャの神秘的な静寂を感じさせた。
そのあとで、地上へ戻って、2百メートルばかりの列柱道路を歩いて帰った。真夏の正午で、雲もなく、暑くて我慢できない。
私はメンバーの一番後ろをゆっくりと歩いた。
観光客は蜂蜜の露天まで来ると、みんな吸い寄せられていった。商品棚の上には一列にガラス瓶が並べられていて、琥珀のように美しかった。
私は遠くから見ていたが、台の上に、握り拳(にぎりこぶし)ほどもある大きな松ぼっくりが置いてあった。
以前、ローマに行ったとき、あんな大きな松ぼっくりが公園の地面に落ちていた。だから私はヨーロッパの松ぼっくりは大きいと知っていた。しかし、商売人はなぜ、松ぼっくりを台の上に置いているのだろうか?
私は蜂蜜を買うわけにいかないので、店に近づかなかった。しかし露天にいる観光客らは何かを食べているようだ。
息子までも彼らといっしょに何か食べている。
息子は私に追いついてきて、「母ちゃん、あの店は蜂蜜を売ってるよ。お母さん買ってやってよ。あの人たち、一生懸命商売しているのに」
私は息子が商売人に優しいことを言うじゃないのと奇妙に思った。
だが今日の息子は楽しそうに観光している。
「それであんたは何を食べていたの?」と私はたずねた。
息子は答えた。「松ぼっくりさ!」
私は息子にどうして瓶入りの蜂蜜が買えないのかと説明してやった。
それでも息子は、「みんな松の種を食べるだけ食べて、買わないで行っちゃったんだ。おばさん可哀想(かわいそう)だよ!」と言った。
私たちはバスに乗って街道のそばの二階建てのレストランに行った。
ここではカッパドキアと違い、客同士の親密な雰囲気がなかった。
私は息子とテーブルの端に座った。
もう一つのテーブルには日本の団体旅行客が座っていた。彼らは話しもせずに静かに食事していた。
こんなに暑い天気の日に、屋外の観光をすればだれだって影響を受ける。
彼らが利用している旅行社はLook、Trapics、Club tourism ではないなあ。と言うのは、今年の夏の旅行社のパンフレットにはペルガモンを見かけなかったからだ。
大概、別の小規模な旅行社か、ヨーロッパの文化に興味のある文化センターのお仲間の個人旅行だろう。
私は青ピーマンの中にご飯を包んだものを2個食べたが、その他どんな料理も美味しく感じなかった。食欲がなかった。
食べた後で私一人で、レストランの外に出て写真を撮った。レストランの入口には特産品コーナーがあった。
ちらりと商品を見ているときは、買うつもりがなかった。しかし、スカーフを手にとってしげしげと見ているうちに、気持ちが変わって買っても良いなと思い始めた。
ガイドを見かけたので、これらのスカーフの品質表示にはPashimina(パシュミナ)と書かれているのはどういう繊維のことですか? 天然繊維ですか、化学繊維ですか?と聞いた。
ガイドはレストランの売店の従業員に尋ねた後で、私に教えてくれた。
パシュミナはカシミアのことではない、しかし天然繊維で、化学繊維ではない。
そこで私はスカーフを買うことにした。
価格は25トルコリラだった。
女性従業員がやって来て、私がスカーフを選ぶのを手伝ってくれた。
大部分のスカーフがパシュミナとシルクの混紡だ。模様はトルコらしい柄で、大変に薄い布である。柄は染めたのではなく、織ったものだ。
私はスカーフを買った後で、きれいなものを見るたびに、すぐ買いたくなった。
帰国後インターネットで調べて見たが、パシュミナはヒマラヤ山羊の首の毛のことだった。