私と息子は旅行社のソファーの上で休息した。
私たちは午後7時にバスターミナルに行かなければならない。
1時間以上も時間があった。
私たちはあまりにも疲れていたので食事に行くということは考えもしなかった。
私はトイレで顔を洗い、服を着替たが、息子は顔を洗おうともしない。
またふとした拍子に旅行社の織物をかけたソファーか絨毯の一カ所から、糞便の臭いが漂ってくるのに今朝ほど気がついていた。
私が息子にこのことを言うと、息子はかたくなな様子で言った、
「僕は気がついていたよ、朝、母ちゃんはクンクン臭いをかいでただろう。日本人の女の人が二人、それを見ていて、嫌あな顔をしていたよ。母ちゃんは失礼だよ!」
私が推理するとこうだ。
誰か観光客が不注意にもラクダのウンコを踏んでしまった。そして旅行社のソファーを汚してしまった。
傍らの事務室は家族的なむつまじさと忙しい雰囲気に満ちていた。
パソコンの前に座っているのは三十才ぐらいの日本女性だ。4才ぐらいの男の子が事務室で一人で遊んでいた。
私たちの目の前のソファーに座らず、床の絨毯の上に座っているのは白いスカーフを頭にかぶり、白いロングスカートと灰緑色の毛糸のベストを着たトルコの老婦人だった。
たぶん彼女はこの家の主人(旅行社の社長)の母親だろう。
主人の年齢はたぶん四十から五十。日本女性とは年がひらいているかもしれない。
老婦人は私に興味があるらしい。
私が16才の息子を連れていて、息子に小うるさく話をしているせいだろう。
老婦人は私の向かいにいた。そのため、私たちの視線がばっちりと合った。
と、彼女が口を開いた。
私はまったくトルコ語はできない。
しかし、私たちの会話はこのように始まったのである。
ここで私が記す老婦人の話している内容は、全て私の推理である。
老婦人は社長の方を見て、「◯◯◯◯◯◯(あれは私の息子でね。ここの旅行社の社長をやっているんですよ)」
私:「そうですか、息子さんですか。」
老婦人うなずいてから:「○○○○」と言うなり突然、こんな声、「KUI!」という声を上げて、自分の手を喉に当ててかききる動作をした。
私は彼女の言いたいのは彼女の夫、あるいは息子が戦争かあるいは何か別の原因で亡くなったということだと想像した。あるいは彼女の家庭に不幸があったのかと。
彼女の視線は小さな男の子に移った。
そこで私は日本語で言った。「そうですか、でも、こんなにかわいらしいお孫さんができて良かったですね」
老婦人:「○○○○○ (あれはまあいたずらな子でね)」
私は日本語で:「日本人のお嫁さんが来て、こんな可愛いお孫さんができてお幸せですね」
老婦人:「○○○○JAPON○○JAPON○○○(若い日本の女の人が私の息子の嫁になるとはね。日本ですよ、日本! どこに縁があるか分からないねえ」
彼女がJAPONと言うとき、彼女の顔に興奮した様子が現れた。
私と老婦人がそれぞれ自分の母国語を使って会話していると、部屋の隅のパソコンで仕事をしていた日本人の女の人が立ち上がって、やって来ると日本語で話した。
「何語で話しているのかと思って注意して聞いていたら、それぞれが、日本語とトルコ語を使って話していたんですね」
そこで私は、「以心伝心っていうやつですね」と答えた。
年若い妻は言った。
「母もお話しできて楽しそうで良かったです。お茶入れますから飲んで下さい」