私も笑った。
そこへウェイターが焼きたての料理を運んできた。
ウェイターは私の前に鶏肉のリゾットを置いた。
私とブロンド美人は魚を注文していた。
私は鶏は注文していないよと言った。
ウェイターは困った顔をした。彼はガイドの所へ注文の間違いが起きたことを伝えに行く様子だった。
私はガイドの責任を追及したくはなかった。
そこで、「I like chicken too . No ploblem.(私は鶏肉も好きだから、問題ないわよ)」
ウェイターは少しの間迷っているようだったが、もう一度言うと、私に鶏肉ご飯を給仕して帰って行った。
我々の会話を聞いていたブロンド美人やその他の人たちも、みんな、焼きたてのおいしい料理を食べ始めた。
食べ始めると、一匹の小さな猫がテーブルの下に来て、何か食べたそうに見えた。
そこで、鶏のリゾットの中から肉をよりだして、子猫の目の前に投げてやった。
子猫はすぐに食べてしまった。
私が2、3回ほど肉を投げてやった後で、右隣に座っていた黒髪の男性が子猫を見つけた。
彼は自分の食べていた飯粒を猫にやり始めた。
彼は猫に声をかけながら、一粒一粒ご飯粒を小猫に落とした。
ご飯粒は地面の上で泥にまみれた。
しかし、子猫はそれを気にした様子もなく、全部食べてしまった。
男の人は本当は猫が好きでないように見えた。
猫に食べ物をやるとすると、べたべたしたものは適切でないように思えた。
私は彼に質問した。「あなたは学生さんなの? 専門は何? 」
彼は答えた。「私は学生じゃありません。もう卒業しています。博士課程を修了して今は、情報工学のエンジニアをやっています」
そこで私は言った。「私の夫は情報工学の研究をしています。夫は数学を教えています。もうあなたほど若くはないけれどね」
彼は私とおしゃべりをする気はないようで、突然、目の前のブロンド美女に話しかけた。
「ねえ、見てごらん!川の向こうの草地に子ヤギがいるでしょ?」
結局はこういうことか、「人の恋路を邪魔するヤツは、ウマに蹴られて死んじまえ!」
もう一つついでに言うと、彼が一生懸命、猫に餌をやっていたのは、たぶん人の気をひきたかったのだ、特にブロンド美女の。
昔から日本ではこういう川柳がある。
『 抱いた子に 叩かせてみる 惚れた人 』
もしもあなたがだれかと恋愛したいなら、誰の子でもいいから抱いて、その子にあなたが付き合いたいと思っている人を叩かせてみなさい。赤ん坊のことを話しているうちに、あなたは彼女(彼)と知り合いになっている、という意味。
邪魔者になってまでここにいる必要はない。
私は息子といっしょに席を立った。
私は息子に小川の水上にあつらえられた小さな茅葺き小屋のそばで写真を撮ってくれるようにたのんだ。
水上小屋は数個あって、それぞれ別のグループが食事をしていたらしい。
それぞれの小屋には岸から小さな板の橋が渡してあり、中は絨毯が敷かれていて、日本の畳のお座敷風である。
私は写真の構図に凝るあまり、この橋の途中まで歩いて行き、息子の方を見て、写真撮ってと言った。
橋にしゃがんで水に手を付けるポーズまでしたら、ようやく、小屋の中の男の人たちが何事かと顔を出しているのに気がついた。しかし私は知らぬふりをしてしまった。
帰国後息子は父親に面白そうに報告していた。