何も太陽を遮る物のない崖の上で、ガイドの説明を聞き終わると、私たちは自由時間をもらった。
私は写真を撮るとすぐに、商店の中に涼を求めに行った。
店の中にはいろいろな土産物があったが、特に気がついたのは、青いガラスの目玉だった。
青いガラスの円盤の中心に白色、空色、黒の三重の同心円がある。この円盤には一つ穴が空いていて、ひもを通すようになっている。
私一人で目玉を手にとってじっと見ていると、ガイドが私のそばに来て聞いた。
「Do you know this one ?(あなたは知っていますか? これが何か )」
私は当然知っていたので、英語で返事をした。
「私は日本の放送局NHKでこの青いガラスの目玉は、邪悪な物(unlucky thing )を遠ざけて、接近を防ぐのだというのを見て知っています」
私は息子を産んで17年このかた英語を使うことがなかった。
だから、NHKを見た見たと、同じ事ばかりを繰り返して言った。
英語の正確な表現を思い出すことができなかったからだ。
しかし、やっとのことで話し終わると、少なくとも私はガイドにNHKテレビが我々日本人に、こういう青いガラスの目玉がギリシア地方の伝統的なお守りであると教えてくれたということを、伝えることができた。
アメリカの軍曹のようなふんいきのこの若い男性ガイドは、私の目を見て、真剣に紹介してくれたのである。
「 This is an Evil eye . 」
もしも英語でこのガラスの円盤を呼ぶならば、〈Evil eye (邪悪な目)〉と言うのだ。
ガイドブックが教えてくれた名前は〈ナザール(NAZAR) 〉。テレビ番組の中のトルコ人の店員がナザール・ボンジューと言っているのも聞いたことがある。
この時、私はこの軍曹は日本あるいは日本人に興味があるのかなと思った。
ガイドがいなくなってから、息子を呼んで言った。
「あんたこの青色の目玉、クラスの友達に買っていきたくない?」
私は店員に聞いた、「これはいくらですか? もしも10個買ったら安くしてくれますか?」
私が手に取った目玉は小さくて特別な飾り紐も付いていない。
ただ空色の細いひもが通してあるだけだ。
店員は目玉一個は1トルコリラで、11個を10リラにしておくと言う。
私が一個一個を手に取っていると息子が言った。
「割れたヤツがある! お母さん、気をつけてよ、悪いの買っちゃ駄目だよ」
後に、私たちがホテルで休んでいるとき、息子は目玉を見て言った。
「糞(くそ)う! 11個ないよ。10個しかない。それにこの目玉の穴の所ヒビが入ってる」
かといって、トルコ商人を批判もできない。
というのは1トルコリラは50円相当だ。イスタンブールで買うと5リラは取られる。バスの発車で急がせたのはこちらだった。