この時、オーナーは私たちが困っている様子を見て、若い男の人に言いつけて、私たちに尋ねさせた。
「Would you like to have eggs ? (卵を食べたいですか?)」
私は答えた、「I cann't eat a lot of egg, because my blood cholesterol is very high, but I can eat one egg. (私は卵をたくさん食べられないんです。コレステロールが高いから。でも1個なら食べます。)」
間もなく従業員が微笑みながら卵焼きの入ったフライパンを持ってきて、フライ返しを使って、私たちのテーブルに置いてあった白い皿に盛りつけた。
私はどうしてレストランが私たち親子だけに卵焼きを出してくれたのかなと思った。
私はよそのテーブルについている例の夫婦の様子をこっそりとうかがった。
彼らはすでに従業員が私たちに特別のサービスをしているのに気づいていて、落ち着かない様子をしている。
私たち親子が「Thank you!(ありがとう)」と笑いながら卵焼きを食べていると、従業員がまた私たちの所に来て、私たちが見たことのない春巻きのような細長い食べ物を見せた。
彼は説明した。
「These are cigarettpie . (これはシガレットパイです。)」
私たちが好きか嫌いかとたずねたあと、シガレットパイの皿をテーブルに置いた。
この時はあの夫婦は困った様子をしていた。というのはトルコ人のオーナーも従業員も彼らに給仕をしないからだった。
私が思うに、あの夫婦はパンかごを自分達のために持って行ってしまったからではないか。しかも、私がホテルの小学生の息子にチップをあげたので、オーナーはお仕置きの気持ちと感謝の気持ちを表現したかったのだろう。
私と夫が1988年にローマに旅行したとき、私たち日本からの観光客は同じテーブルを囲んで食事をした。
テーブルにはパンかごが置いてあった。
かごの中にはプラスチック包装された細長いパンが何個か盛ってあった。
私たちの団体の中に一人の若い女の人がいて、彼女はあんまり疲れていて食欲がなく、一つも食べていなかった。
しかし、ここはローマだし、かごの中のパンは客のために準備された物だ。また私たちは外国のパンを試しに食べてみる必要がある。
というわけで、持って帰るようにと彼女にパンを一つ渡した。
レストランの従業員がスパゲッティを持ってきたとき、彼女の前に手を付けていないパンがあるのを見つけると、乱暴にパンを取り上げて帰って行った。パンを彼女のためにと目の前に置いたのは私なのに。
四半世紀過ぎた今でも、親切心からしたことが彼女に嫌な思いをさせてしまってつらく感じられる。
ヨーロッパ文明圏での私の経験からすると、レストランで他の客のことを気遣うことは大事で、バイキングでパンを持ち帰るのは御法度だ。
シガレットパイはおいしくて、皮の中に熱くてとろとろに溶けたチーズが入っているところが良い。
ホテルのレストランはたいてい朝食に加熱調理するのを避けたがる。作業の手間と時間を惜しんでのことだ。
しかし、このホテルは、油で揚げた料理を出してくれたのが意外だった。 私たちは楽しかったけれども、あの夫婦の気持ちを考えると、悪いなあと思った。
あとで、息子が私に教えてくれた。
オーナーがジャムは彼のお母さんが栽培したイチゴで作ったと説明してくれたそうだ。
息子はニコニコしながら話してくれた。と言うのは、息子にもオーナーの英語が理解できたから。