「ウチのホテルにはレストランはありませんよ」とホテルの人は言った。「しかし、ウチの息子に、友達がやっているレストランまで案内させましょう」
空はすでに真っ暗になっている。
道路に面した入り口のドアを開けた。
黒々とした空を背景にして数個の巨大な岩が浮かび上がっている世界が見えた。
小学生らしいホテルの男の子は生まれつきの性格か、あるいは大きすぎるスリッパを履いているせいか、私たちのまえをヨタヨタと歩いて行く。
私たちはまず西の方に50メートル、右に曲がって100メートルぐらいの坂道を下りていき、比較的にぎやかな通りに出た。
通りには高い建物はなく、1、2階建ての建物の灯が心を温かくさせた。
奇妙な形をした巨大な岩の表面に掘られた窓の光に照らされて、まるでおとぎの国の小さな村の建物のように見えた。
ホテルのオーナーの息子と街の通りを歩いて行くとき、私は突然一軒の商店の前で足を止めた。
商店には壁がなくて奥の方に小規模のレストランがある。
入り口の近くには飲み物を冷やすガラスの冷蔵庫があって、雑貨店のように見受けられた。こういうレストランは安いし、ご当地グルメが食べられるのではないかと思った。
しかし男の子が私を呼んだので、その子のあとを歩いて行かなければならなかった。
彼が連れて行ってくれたのは、その地方の風格のあるしゃれたレストランだった。
彼はレストランの主人に何か言った。
そして私はその子に3リラをあげた。(このチップは比較的多いかもしれないけれども、小学生が夜に外に出て父親のお手伝いをするのは感心だと思ったから。)
レストランの主人はきれいな店の中を通って、屋外のテーブルに案内してくれた。
気温は26度そこそこ、涼しくもないし暑苦しくもない。
メニューの料理の価格は7から12リラぐらいで、私はためらうことなく、オーダーした。二種類のサラダと一皿のスパゲッティ、焼き肉盛り合わせ(鶏、羊、牛)、ビーフステーキ一皿。
それと紅茶と乳酸飲料を注文した。
レストランが私たちに出してくれたのはすべて缶入り飲料だった。
たぶん水道水が飲めないためだろう。
出された料理はみな量が多く、私たちは食べ切れなかった。
最後に注文したピザパイはとても大きかった。
息子曰く、「腹一杯で食べられないよ!」
そこで従業員を呼んで、「ピザパイを持ち帰りたいんですが、プラスチックの容器か何かもらえませんか?」と言った。
彼はすぐに私の言いたい事が分かったらしく、皿を持って厨房に帰っていくと、すぐに容器に詰めたピザパイを持って帰ってきた。
(ホントのことを言うと、私は一切れしか食べていなかったが、すごくおいしかった。しかし残念なことに翌朝早く、息子が私の知らない間にひと切れ残らず食べてしまったのだった。)
この晩は、トルコに来て初めてしっかり食べた晩ご飯だった。
私はレストランの壁に緑のブドウがぶら下がっているのを見つけた。レストランの天井にはトルコ特有の絨毯(じゅうたん)が飾り付けてあった。
このレストランの素敵な雰囲気とおいしい料理で息子はすっかり元気になった。
ここでは私たちはクレジットカードが使えなかった。
支払いは50ユーロを出すと、20リラそこそこのトルコ貨幣でお釣りをくれた。(使ったのは日本円にして4500円相当)