旅行社のスタッフは私たちをギョレメ(Göreme)村の南の丘陵まで送ってくれた。
石造りの壁をうがった門をくぐり抜けて入った中に庭があった。
中庭の周りは自然の巨大な岩だ。
屋根のない中庭の石の床の上にソファーやテーブルが置かれている。特別にはフロントのようなものはないようだ。
一人の男性がトルコ特産の織物を掛けたソファーに私たちを座らせた。
もしも雨が降ったら雨を遮る物はない。
周囲の岩が日の光を遮ってくれるので、ひんやりとしている。
その職員は中庭の入り口に面した一階部分の洞窟に私たちを案内してくれた。
洞窟の中には二間あった。
岩をくりぬいて造った窓と入り口がある寝室、浴槽とシャワースペースと洗面台がある浴室である。
特徴的なのは浴室が洞窟の奥の方にあると言うことだ。もしも電灯が消えたなら真っ暗で何も見ることができない。
寝室には電気ヒーターがあるがエアコンはない。
だから、私たちは窓を開けておかなければならなかった。
しかし、窓には網戸が付いていない。雨の降らないカッパドキアには蚊が発生しないということか?
部屋の壁は継ぎ目のないひとつの巨大な岩でできている。
天井部分には天窓が開いている。ガラスがはまっているのかどうかは分からなかった。
壁には物を置くためにくり抜いた幾つもの窪みがあった。
カーテン、テーブルクロス、シーツなど趣味が良い。洞窟の中は家具屋さんの店内のようにヨーロッパの古典的な美しい家具が据え付けてあった。
息子が風呂に入ったあとで私が浴室に入ると、少し、下水臭かった。
浴室には窓がないからだろう。
私はバスタブと洗面台で洗濯をしていると気分が悪くなってきた。こんなに疲れているときに洗濯をしなければならないとは!
イスタンブールでもこのホテルでもバスタブにはシャワーカーテンがなく、レールもない。洗い終わった洗濯物を干す場所が見つからない。
浴槽にはガラスの仕切りが付いている。カーテンよりも清掃しやすいからだろう。
私はビニールひもで、ようやく服を干した。
私の買ったたくさんのガイドブックは、服はたくさん持って行かずに、ホテルで洗濯しなさいと書いてある。乾燥したトルコなら濡れた服はたちまち乾く。
しかし、近代化した客室は全てカードキーだ。昼間外で観光している間、空調は止まっていて服は乾かない。
私たちは5、6日分の服を持ってきた。しかし11日の旅行には11組の衣服がいる。今度また海外旅行に行くとしたらたくさんの服を持って行くのを忘れないようにしたい。
私は窓のカーテンレールに服を干すとようやく休むことができた。
息子は一人ベッドの上で日本から持ってきた醤油味(しょうゆあじ)のアラレを食べていた。
私も欲しくて手を伸ばしたが分けてくれない。
この性癖(せいへき)は彼が2歳の時から全然変わらないのだ。
息子が一人で食べ終わったあと、食べ残したちょっぴりをようやく食べることができた。
食べ終わった息子は眠ってしまった。
時間はどんどん遅くなる。外は真っ暗になった。
私は晩ご飯が食べたくなった。
息子を起こしたが、息子は行きたくないという。
しかし、トルコに来てから毎晩きちんと晩ご飯を食べていない。そんなの絶対我慢できない。
二人で中庭に出てスタッフを探して言った。
「ホテルのレストランで食事ができますか?」
彼は言った。「私たちのホテルにはレストランはありませんよ」