私ひとりで建物を出たところ、あの女性ガイドがやって来た。
そこで私は今日の午後の予定を聞いた。
彼女の言うには動物型の岩のあるところへ行くのだそうだ。
私はカッパドキアの広告でしばしば登場する風景のことだなと思い出した。
そこで、「That is very important !」と言った。
私が次の観光の重要性について認識していると思って、彼女は満足したような顔をした。
カッパドキアの広大な乾燥した大地は夏の午後の太陽の下で目がくらむほど眩(まぶ)しかった。ミニバスはキノコ型の白い巨石の幾つか立っているところに停車した。
私たちはガイドといっしょに大きな岩のある乾いた場所を目的地まで歩いた。
ガイドは私たちに30分あげますと言った。そこで私たちは思い思いの岩に向かって散り散りに分かれていった。
私と息子はいったい何を見てよいのか分からず、乾燥して白くなった地面になすすべもなく立っていた。おかしな形の巨石を見ながら。
私は写真を撮ると、息子と二人で他の観光客について歩いて行った。
百メートルか2百メートル先か、強烈な太陽の光の下でくらくらする状態になって、他の観光客が集まっている所にやっとのことでたどり着いた。
数十メートルもの高さがあるのか、キノコ型の巨石の表面に梯子(はしご)が掛かっている。
巨石の中に洞窟住居があるのだ。(パシャバー(Paşabağı)の修道院)
私はここから入り口まで、わずか10メートルそこそこだなと思った。しかし、足を動かすことができない。
巨大な岩の影であたりの様子を観察した。
こんな暑い天気なのに、元気いっぱいの欧米人は梯子を昇っていく。昇る者あり、降りる者あり。
私は巨石の傍らに一軒の土産物の屋台を見つけた。屋根はなく日傘があるだけだ。
一匹の犬が店と反対側の岩の元に体を伸ばして横たわっている。
目は見開いたままで、ハアハアという呼吸がない。
こんな暑い夏の日には、たいていの犬は呼吸をすることによって、体温を発散する必要があるので、呼吸が荒いものだ。
しかしこの犬は呼吸をしていない。目を開けたまま、瞬きをしない。
たぶん死んでいるのだ。
私たちは最後まで洞窟を観光せず、ミニバスに戻ろうとしていると、例の女性ガイドがやって来て、解説を始めた。
彼女は「あの石はね、」と英語で「Rabbit(ウサギ)と言うんだよ」と言った。
彼女が紹介してくれた巨石の形はまるで猫のようだった。
耳がとても短かったからだ。
私は岩がウサギのように思えなくて、こう言った。「Cat (猫)! 」
すると彼女はもう一回言った、「Rabbit ! 」
私は困ってしまった。この頑固(がんこ)な日本人を説得できないので彼女は欲求不満のようなのだ。
私はすでにあの岩が動物の形をしていることは認めているのだが。彼女にはどうして私があの岩を猫というのかわからないのだ。
ミニバスの所へ戻ってくると、二人の男子中学生がアルバイトでやっている飲み物屋でコカコーラを買った。
こんな辺鄙(へんぴ)なところで、発電機を使って冷蔵庫を動かしている。
発電機のエンジンの音が大音量で響き渡っている。
欧米系の二人の女性が日傘のあるテーブルで休んでいた。