エアコンの温度はちょうどいい。私たちはそれぞれに日本から持ってきたプラスチックの洗面器とピンク色の小型キャリーを足もとの床に置いて足載せ台替わりに使った。そしてすぐに寝てしまった。今まで夜行バスや飛行機に乗った時、絶対寝つけなかった私が簡単に寝てしまったのだ。
目が覚めたとき、バスは止まっていた。ドアは開いていて乗務員は皆いなくなっていた。
バスがガソリンスタンドに着いたのだろうか、トイレに行かなくちゃと思った。私は、息子にバスを降りたいかと尋ねたが、息子は行かないと言った。
私は一人で車を下り外に出た。
外には何人かの運転手と乗務員が、話をしたい者は話をして、たばこを吸いたい者はたばこを吸っていた。
私は一人でバスを離れた。
バスのそばの建物には明かりがなく、周囲は暗くて、それ以外の建物はないようだ。
その建物はまるで辺鄙な地域にあるただ一軒の農家の作業小屋のように見えた。一点の明かりもない。
しかし私はすぐにトイレを探さなくちゃと思った。この小屋のそばに必ずトイレがあると思った。
そこで私が小屋のそばを離れると、たちまち男の人の大声が聞こえた。
振り返ってみると、さっきは気がつかなかったが、今になってようやく小屋の前の暗がりにテーブルがあるのが分かる。
周囲には2、3人の夕涼みをしている黒い人影がある。
そんな暗い所で知らない男の人に怒鳴られたので、私はびっくりしてしまった。すぐに彼らの所から走って逃げ出した。
しかし離れれば離れるほど、その男の人は大変なことでも起こったように叫ぶのだ。最初は悪い人と思ったが、大声で私を呼び止めるのは、何か私に教えたいことがあるのだと気づいた。
私は振り返って相手の顔を見たが、あたりは真っ暗で表情が分からない。
しかし、彼は人差し指を立てて私に一つの方向を指し示した。
私はその方向に向かって、その小屋の周りを半周して、安心した。
暗い小屋の反対にはガソリンスタンドがあって、室内には電気の明かりがコウコウと光っていた。ガソリンスタンド脇の商店のそばにもテーブルがあり、周りには何人かが座っている。
一人の男の人がトイレの場所を教えてくれ、女性トイレを見つけることができた。
トルコの男性はこのように毎日毎日、外国人にトイレの方角を教えてやっているのだ。
トイレの手洗い場には電灯が灯っていた。
しかし、内部の便器のある小部屋には明かりがない。もしもドアを閉めて用を足すとすると、何にも見えない。
そこで外の照明をトイレに入れるために、私はドアに隙間を空けておいた。
この時、外に人がいると気がついた。
男か女か分からないので不安だったが、気にしている暇はない。
私は便器のそばに水道の蛇口と、赤いプラスチックの取手付きの小型バケツを一つ見つけた。
私は設備の使い方を考えた。
① 水道で手を洗い、洗った水をバケツに受ける。
② バケツの中の汚水で汚物を流す。
(実際には私の推理は正しくなかった。この
バケツはお尻に水をかけて洗うのに使うので
バケツを汚してはいけない)
このような方法で私はトルコの典型的な水洗トイレを使いこなしたのである。
手洗い場に出て、蛇口をひねろうかと思ったとき、バスの若い男性乗務員が私のそばに現れて、私に代わって水を出した。さっき外に人がいると思ったのは、彼だったのだ!
彼はニコッと笑うと帰っていった。
残された私は一人で手を洗った。
私一人でバスを離れて、もうちょっとでバスにおいて行かれるところだったと心中ヒヤリとした。トルコの公共交通バスの乗務員は冗談も好きだが、やることはしっかりやるなあ。