路面電車はどれも2両編成だ。
車両の形式はとてもモダンだった。
車内には空いた席がなく、立っている人が多い。
しかし、一人一人の周囲には空いたスペースがあった。座席はプラスチックで背もたれは低い。冷房の温度はちょうどいい。
電車は動き出した。私は心配で窓の外を見ていた。
まず心配なのが私たちの乗った路面電車が対岸の新市街に行かず、金角湾のほとりで曲がってぐるりと旧市街に戻ってしまうのではないかということだった。
電車は坂道を下っていき、金角湾が見えた。
海辺には車が多く、桟橋の近くにはバス、自家用車、公共連絡船などがごちゃごちゃと入り乱れていた。
電車がエミノニュ(Eminönü)桟橋駅に着いて以降、私は気が気でなかった。
しかし、電車はみるみるうちにゴトンゴトンと音を立てながら海に向かって曲がり、たちまちガラタ橋を渡り始めた。
電車の速度は遅く、橋の上を歩いている人や、釣りをしている人を見ることができた。
私たちはまだ橋を渡ってからの電車の乗り換え方法を決めていなかった。
ガイドブックによると、橋を渡ってから乗り換えて、世界で一番短い地下鉄に乗るのだという。しかし運を天に任せて電車の進んでいくのに任せるしかない。
橋を渡ってから電車はボスポラス(Bosphorus)海峡に沿ってゆっくりと進んでいく。私は海が好きで、特にこんなふうに暑い夏の日に見る青々とした海辺の風景は格別だ。
桟橋を一カ所通り過ぎると、電車はとうとう終点に着いた。
海岸にはたくさんの美しい白いクルーザーが停泊していた。
電車を降りると私たちはその駅の名前がカバタシュ(Kabataş)というのだと知った。
意外に思ったのは、地図にはその駅名が見あたらなかったからである。公共交通機関の建設速度が速いこのイスタンブールではこのような発展のありようは不思議でも何でも無い。
息子は目ざとく車道(しゃどう)を挟んだ向こう側に地下鉄の標識を見つけた。車道を渡ると階段があり、そこを登って行くと、海に面した丘の中腹に地下鉄の入り口が開いていた。
そのあと地下鉄の駅でJETONを買うときに、1枚のお札を券売機に入れると意外にも出て来たのは6、7個のJETONだった。
券売機はたぶん入れた金額で買える最大の枚数のJETONに代えるのだろう。
カバタシュ桟橋からタクシム(Taksim)広場までの地下鉄は超モダンでキレイだった!
これはガイドブックが紹介した古い地下鉄線のはずがない。
広場に着くと息子は言った。
「軍事博物館に歩いて行こうよ」
トルコに着いてから、いつもいつも暑いの疲れたのと言っていた息子がこれだ!
特別の環境にいたら、息子は自分の好きなことならやりたくなるのである!
私は言った。
「だめだめ歩くなんて、タクシーに乗ったらどうなの? 」
私は簡単に黄色いタクシーをみつけ、運転手に地図を見せた。
運転手には目的地が分かった。