マイルストーンの写真を撮ったあとでようやくのことで地下宮殿の入り口を見つけた。
アヤソフィア大聖堂の向かいの小公園に似た場所には特に何の変哲もない変電所のような、空調調整室にも似た長方体の一、二階建ての建物があった。
この建物は路面電車通りと一般道路の交差点に面していた。入場口建物の歩道には20人ばかりの列ができていた。
列のしっぽを探すのに、何分もかかった。
列を作っている人たちがきちっと並んでいないせいだった。列はあちらにこちらにくねくねと曲がっていた。
しかし、とうとう最後尾を見つけて、じっと番を待った。
ちょうどこの時、歩道を2、3人のスカーフをかぶった中年女性たちが私たちの方へ歩いてきた。彼女らは列の最後尾を探している様子だ。
私は彼女らにここだと教えてやりたかった。だが、トルコ語ができないので手招きした。
手の甲を上に向け、手のひらを下に向けて。彼女らに私たちの前に並ぶように合図した。
私は他人に後ろに並ぶように指図するのはいやだったからである。イスラム教徒に後ろに並べというのはマナーに反するのではと心配したのだ。
彼女らは満面笑みを浮かべた。まるで親友が見せる笑顔のようだった。
そしてすぐに私たちの前にやって来た。
私は彼女たちがほかの何人もの人といっしょだとは思いもしなかった。彼女たちは家族みんな一緒に旅行に来たのだろう。
若い女性、若い男性、お年寄り、彼らは娘、息子、お祖父(じい)ちゃん、お祖母(ばあ)ちゃん、ご主人たちなのだろう。私は他人に親切にしすぎたのだと思った。
何事も、ほどほどが大事。
列に並んでいて、ようやくのことで周りの観光客の様子を観察する時間ができた。
歩いているほとんどの人は観光客だ。
産油国から来たのだろうか?
黒い服を身にまとい黒いスカーフをかぶっている。両眼を除いて全身のすべてを覆っている。
黒衣の女性が連れている小さな女の子はTシャツとショートパンツをはいている。
私は一人の黒衣の女の人の靴がスニーカーなのを発見した。
この時私はユーモラスに思った。黒衣の下にはTシャツやタンクトップやショートパンツなど欧米人と同じカジュアルを着ているのかもしれない。
黒衣の女性たちの旦那さんたちらしい男性はみなTシャツにGパンをはいていた。
彼らの髪はあるものは黒く、またあるものは茶色だった。皮膚の色はみな白かった。ちょっと彼らを見ただけでは欧米人と間違えてしまう。
トルコの女性はスカーフをかぶるが衣服は我々と同じだ。ただ中年や年寄りの女の人はトレンチコートのような外套を着ている。
トルコ人の一家にはどんな事情があったのだろうか?
彼らは切符売り場で係員と話をしていたが、突然、入場をやめて街に消えていった。
地下宮殿と呼ばれている建造物は実はローマ時代に造られた貯水庫なのだ。地下空間は奥行き143メートル、巾65メートル、高さ9メートル。
ローマ帝国の各地の取り壊された神殿から運ばれてきた336本の石柱が天井を支えている。
現在使用されておらず、貯水庫の水位は1メートルぐらい。
たくさんの魚が泳いでいるのが見えた。
元々照明はなく、現在は弱い灯りが観光客のために灯されている。
内部は薄暗く、我々観光客はまるで古代ローマ人にでもなって、宮殿のプールぎわのテラスを夜に散策している心地だ。
特に見るべき物はギリシア神話の中の魔女メドゥーサ(妖怪ゴルゴンの三姉妹の三女)の二つの頭部だ。
頭はそれぞれ別の石の柱の下にあり、一つは上下逆さまで、もう一つは横向きに倒れている。石柱の台座にしてあるのだという説と魔除けのためにそうしてあるのだという説があり、現在もはっきりとはしていない。