大きな展示室や廊下の展示物を通り抜けていくと、見ている人は私たち二人だけになった。
 薄暗くむっと暑い展示室の角に女性監視員がいた。
 私は、監視員が一人ずつあちらこちらに立っていることに気がついた。 
 髪の色はみな茶色で白いカッターシャツと黒いズボンをはいている。
 彼女らは、こんな薄暗くてめちゃくちゃ暑いところでおしゃべりをする同僚もなく、一人で長い時間立っているのだ。
  
 見るべきものも多いが、考古学博物館の敷地内には三種類の博物館がある。考古学博物館と古代オリエント博物館と陶磁器博物館の三つである。
 ひとつの博物館でこんなに長い時間を使うわけにはいかない。
 そこで、とうとう私たちは見るスピードをあげ、どんどん陳列物を見るのをとばしていた。
 ただ非常に大きな実物の神殿とトロイの木馬の複製品のところに来たときには足を止めた。木馬にははしごが架けてあって、見に来た人は木馬の腹の中に上がることができる。
 息子は興味を持ったようだ。
  
 途中で休めるところ、カフェにやって来た。二人の職員の髪の色は茶色だった。私は20ユーロの紙幣で缶飲料とチョコレートケーキを買った。
 息子を喜ばせるためだ。
 女性職員は23リラのお釣り(おつり)をくれた。
 ケーキは甘すぎた。私たちは休んでからまた見始めた。
  
 暗い場所に大きな石棺があった。側面には美しい彫刻がほどこされている。写真を撮りたいと思ったとき、一人の白人男性が目に入った。背が高かった。
 彼はカメラを持った手を伸ばして、石棺の上から写真を撮った。
 彼はフラッシュを使った。
 女性監視員がたちまち彼の前に現れて、何やらかにやら話した。
 私には彼女の話した内容は聞き取れないが、多分「ここでは写真は撮らないで下さい!」、あるいは「フラッシュは禁止です!」だったかもしれない。
  
 ここに来るまで写真を撮っている人は多かった。
 私も何枚も撮った。是非とも、この美しくて、かつ有名なアレキサンダー大帝(Alexander)の石棺は撮りたかった。側面に戦場で指揮を執る大帝が刻まれているので「大帝の石棺」と呼ばれているのだ。
 そこで、私はこっそりとフラッシュを使わずに写真を撮った。
  
 2時間半もかけて考古学博物館を見終わった。残りの陶磁器博物館と古代東方(Orient)博物館も見なければならない。
 ガイドブックを見て気がついたのだが、有名なバビロン(Babylonn)のイシュタル門(Ishtar Gate)をまだ見ていない。
 それで女性館員に本の写真を見せて、どこに行けば見られるかと尋ねた。
 すると彼女は英語で答えた、「RESTORE」
 正確な意味はわからないが、おおよそのところ今は見ることができないという意味だと理解した。
  
 陶磁器博物館を見たあとで入り口の階段を上り古代東方博物館に入ろうとした。
 しかし二人の男性館員が現在は「RESTORE」のため入館できないと言う。
 ホテルに帰ってから細かいことを本で見てわかった。バビロンのイシュタル門は古代東方博物館にある。
 英語の辞書を調べて「RESTORE」の意味がわかった。現在、展示替えしているために、東方博物館はしばらく未公開なのだ。 

古代神殿のレプリカ

トロイの木馬のレプリカ

考古学博物館の別館オリエント博物館

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