その不格好な石柱が立っているのは、小さな広場で、周囲の商店は逆光の中に黒く見える。
 早朝の太陽の光線はまぶしい。
 まず初めに目に入ったのは、地面の上にたくさんのハトがいることだ。
 一羽一羽のハトは長い影をひいていた。太陽光と影のコントラストで、私はくらくらした。
 この時、私はこの石柱が重要な歴史遺産だとは知らなかった。しかし、石柱の表面には何カ所かの黒い部分があって、それはまるでトンボのしっぽの模様のようだった。
   
 息子が気がせいている様子で私を見たので、私はこの不格好な石柱と、ハトたちの写真を撮るだけにした。
 帰国後、写真の中の石柱の細かい部分を見てみると、石柱の台座は石造りで、台座だけでも高さが7、8メートル以上ある。
 石造りのでこぼこの表面にはたくさんのハトが留まっている。
 ハトたちはまるで岩ツバメのように、台座の垂直な面に留まっているのだ。
 ガイドブックによると、コンスタンチヌス帝は、コンスタンチノープル遷都の記念として、よその場所からこの石柱を運んできたのだという。
 しかし、その後、老朽化したため、たくさんの鉄の輪を使って固めて修理したのだという。そのため、チェンベルリタシ(Çemberlitaş)(たがのはまった石)と呼ばれるようになった。
   
 私たちは石柱を離れるとすぐに曲がり角に来た。
 右に曲がればすぐに大変に混雑した古い商店街だ。
 商店街の入口に立っている人はみんなトルコ人の男性で、あるものは同業者とおしゃべりしているし、あるものは簡単な木の椅子に座って、タバコを吸っている。
 彼らはそこで休憩しているのだ。そのほか数人の男性は忙しそうに往来している。ザワザワと人の声が響いている。
 私は彼らを見るなりすぐ向きを変え、反対方向に歩き出し、その商店街から離れた。
 ホントの所を言うと、そんなにたくさんのトルコ人男性が群れていて、一人の女の人もおらず、一人の欧米の観光客も見あたらなかったので、怖くなったのだ。
   
 グランドバザールの入口はこれらの男たちの向こう側にあったのだが、私には見つけられなかった。
 この時私は、グランドバザールはベヤズット門の後ろにあると思っていた。しかし、私の持っていたガイドブックのベヤズット門の説明の下の方にイスタンブール大学の威風堂々とした正門の写真があった。
 それで、私は市場の入口と、大学の正門を簡単に取り違えてしまったのだ。
 大変に混雑した商業地区を離れて、50メートルも行かないうちに、芝生のある所に着いた。
 芝生の中には鉄柵で入れないようになった大学の正門があった。今まさに修繕工事中だが大変に美しい建物だ。
 正門は公園に面していた。
 ここでへばってきた私は休憩したくなった。そこで二人は木陰の屋外喫茶でコカコーラを飲んだ。
 この時、私は目の前の大きな門がグランドバザールの入口だと信じていた。だからのんびりとコーラを飲んだ。
   
 しかし、道を歩き始めると、市場の入口がない。
 歩いている道のそばの大きな建物が多分市場だと思った。建物に沿って百メートルも歩いたが、門が見あたらない。
 とうとう建物の角にやって来て、この建物の角を曲がった。さらにこの建物に沿って20メートル行くが、依然として門はない。
 また20メートル行くと、とうとう閉まっている鉄の門を見つけた。
 今にして思うのは、私たちが建物と思っていたのは、建物ではなくて、入ることのできない高い塀で囲まれたブロック(市街地の一区画)かあるいは大学の敷地だったのかもしれない。
 突如、今日は市場がお休みなのではないかという疑念がわいた。それとも、この建物は市場ではないかもしれないとも思い始めた。
 この建物のそばに何軒かの商店があった。
 そこに、通貨の交換所を見つけた。
 私たちは店の中に入ると、店員にトラベラーズチェックがお金に換えられますかと聞いたが、彼は「No!」と言った。
 その後で、「グランドバザールはどうやって行くのですか?」とたずねた。

右奥に見えている灰色の石造りのアーチがグランドバザールのベヤズット門。トルコ国旗も立っており良く注意すれば分かるはずだが見過ごしてしまった。

男性ばかりの人混みの中に
入って行くのはちょっと怖い。

グランドバザールを通り過ぎた西隣の
ベヤズットジャーミー。

ベヤズットジャーミーのそばでコーラを飲む筆者。

イスタンブール大学の門。
校舎は離れたところにある。

グランドバザールを見逃した我々は丘の下のエジプシャンバザールからグランドバザールへ戻る坂道をのぼって行った。

今度は簡単にグランドバザールのマフムトパシャ門を見つけた。1481という設立年が刻まれている。トルコは古い歴史のある物ほど昔のままの姿で地味なので見逃してしまいそうになる。

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