私たちが次に見るべきは、トルコ皇帝の宝物である。特にトプカプの短剣と、スプーン売りのダイヤモンドだ。NHKの番組ですでに見ていたが、トルコに来てこの機会を逃すわけにはいかない。
 第三庭の周囲には建物がある。みんなテーマの異なる小さな博物館のようだ。
 私たちはガイドブックで宝物博物館の位置を確かめて、列に並んだ。並んでいる人は2百人は超えている。建物の前は混雑していた。
 列はクネクネ曲がって、私たちは最後尾を探しだした。
 すぐに70才ぐらいの眼鏡をかけた欧米のおばあさんがやって来て、聞いた。
 「ここがダイヤモンドの列の最後尾なの?」
 それで私が、「そうですよ」と答えると、彼女は、「こんなに長い列は私には待つことができないわねえ!」
 こんなに大勢の人が並んでいる列をみれば誰でも心配になる。しかし彼女のこの心配は私も同じだ。
 だから、私は言った。「心配しないで! 列は長いけれど、移動速度は速いですよ。心配しないで!」
 この老婦人は列に並びたくないというような様子で、辺りをみていたが、周りの何人かの観光客が並ぶことを勧めた。
 彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。 彼女は一人で旅行に来たおばあちゃんのようだったが、よその人に助けてもらって、嬉しそうだった。
 (私はすごく疲れているときは人を手助けすることができないが、昨日の夜はベッドでよく寝たので人の面倒をみられた。)
   
 私たちは10分も待たずに順番が回ってきて、入館できた。
 中は暗かった。ガラスケースの中は照度が足りない。
 観光客はみんなよその人の肩越しにみている。博物館の中は大変混み合っていた。みんな展示品の前に寄り集まっている。
 それ以外の場所は比較的空いている。
 ゴールドの表面にルビー、エメラルド、ダイヤモンド、真珠がはめ込まれている工芸品がたくさんあった。これらの宝石はカットされておらず、元の形のまま研磨してあった。
 しかしその素朴で単純な宝石がゴールドの輝きと引き立てあって調和している。
 皇帝の用いた生活用具(水差し、茶碗、道具箱、椅子)はみんな金で作られた工芸品で、とてもきれいだ。見なければならない物は、その人その人によって違うらしく、私が見たいと思っていた短剣とダイヤモンドのガラスケースの前は観光客が少なかった。彼らはちらりと見ると、すぐ他へ行ってしまう。
   
 私はトプカプの短剣のガラスケースの前に立って、皇帝の短剣を見ていた。この短剣は鞘が黄金製で、何個かの原石の形のエメラルドがはめ込まれていた。その中間部分にはかごに盛られたフルーツをテーマにした七宝細工が施してある。
 この一振りの短剣は皇帝Mahmud一世(1730-1754)がペルシアの統治者Nader Shahに贈った贈り物だった。
 皇帝は広大なオスマン帝国の権威を示すために各地の統治者(シャハ)からの贈り物に対して豪華な返礼をした。
 しかし、その意図に反してプレゼントは国の宝物庫に戻されることが多かった。この短剣もNader Shahの没後、オスマントルコの使節団が宮殿に持ち帰ってきたものだという。(返礼を固辞するのがトルコ流なのだろうか?)
 ガラス一枚を隔てて、私の目の前に重要な歴史的文物があるのだ。私は非常に嬉しかった。私は鼻をガラスにもうちょっとで押し当てんばかりにして、心ゆくまで鑑賞した。
   
 そのあとで、スプーン売り(spoon maker)(日本名と英語名が食い違っているがそれぞれガイドブックに記されたまま)のダイヤモンドと呼ばれる物に近づいた。
 この有名なダイヤの指輪の周りにも人がいなかった。
 私が見ているときに2人、3人と観光客がやって来たが、すぐに他の場所に行ってしまった。
 聞くところによると、中央の86カラットのダイヤは、ある漁師が海岸で拾って市場に持って行ったところ、3本のスプーンと交換されたと言う。
 ダイヤは洋梨型で周りは49個のブリリアントカットされたダイヤで囲まれて、二重の輪ができている。
 私が驚いたのは、この指輪がこんなに大きいということだ。身につけてみたら、手の甲の半分が隠れてしまうかもしれない。

第三庭を囲む建物が各種類の展示室になっている。宝物館の前。四時過ぎて鍵がかけられ人の姿もまばらになった。

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