カッパドキアに来た最初の日に迎えに来た高校生が私たちをバスターミナルまで送ってくれた。
 カッパドキアに来た早朝はあんなに閑散としていた広場も、今は大変混雑していた。
 旅行社の高校生は足を止めて日本語で言った。
 「私は日本語ができませんから」
 彼の言いたいのは、「日本語ができなくて行き届かなくてすみません」と言うことであろう。しかし、私は昨日の早朝、息子にがみがみ言った事を思い出した。
 彼には私たちの日本語の会話の意味は分からなかっただろうが、私の怒っている様子は見て分かったと思われる。だから私は恥ずかしかった。
 彼はアメリカの有名な映画俳優のトム・クルーズにそっくりで、黒い髪、黒い眉、くぼんだ涼しげな目元の超ハンサムなのである。
 彼の写真を撮らせてもらいたかったが、写真撮ってもいいですかと聞けなかった。
 私は言った。「それだけ話せたらたいしたものですよ」
 だが彼には私の言っている意味が分からなかったようだ。
 トルコ人の話す日本語の発音はたいへん良く、もしも一言二言聞くと、その人は日本語がうまいんだと誤解してしまう。(言語の系統が近いらしい)
   
 私は彼にチップをあげ、彼は帰っていった。
 私と息子はバスターミナルの広場で、予約した夜行バスを待っていた。
 広場の南側には各バス会社の事務所が一列に並んでいる。
 短パンを穿いた個人旅行の観光客たちが思い思いに切符売り場の前で立って待っていて、たいへんに混んでいる。
 かれらはみんな夜行バスに乗ろうとしているのだ。
   
 トム・クルーズは私たちに教えてくれた、夜行バスが来たら自分達で乗ってくださいねと。
 私たちのバスはまだ来ない。
 私がここの様子を見てみると、意外や、広場の面積はかなり大きい。
 北の方には何軒かの平屋の商店などがある。しかしそんなに人がいない。
 大部分の人は南側の切符売り場の前にいる。
 私たちは乗ることになっているバス会社の前の地面に荷物を置いた。
   
 私は周囲の風景を写真に撮りたいと思った。
 私たちのバスはSüha(スーハ)という会社の7時30分GÖREME発だ。
 私はピンク色のSühaの文字が書かれた看板と壁に掲載された時刻表を見つけた。
 時刻表はとても大きくて、どこの目的地でも毎時数本有る。字が大きいので写真に撮ったらはっきりと写るだろう。
   
 記念にと思って、カメラのファインダーを通して被写体を見ていると、事務室の中から太った中年の男の人が私の所へ駆け出してきた。
 彼の顔には警戒が表れていて、何か言った。
 私はすぐに彼の言いたいことを理解した。
 しかも、事務室の入り口にいるもう一人の男の人は自分の手でピストルの形を作り腰をかがめて、「パンパン!」と言って、私めがけて二発、発射した。
 彼の目にはまるで子供が遊んでいるときの目の輝きがあった。
 私はカメラをしまって、乗車券を見せた。
 男の人は乗車券を見ると、片腕を上げて時刻表のその場所を触れて見せた。
 「あなた方の乗るのはここだよ! 7時30分出発」
 私が息子のそばに戻ると、そのスーハの男の人が私たちの所へやって来た。
 彼の手の中には何か赤いものが握られており、それを息子に渡すと事務室に帰っていった。
   
 息子はもらったものを見せてくれた。それはサクランボだった。
 私たちがスーハの切符売り場の入り口を振り返ってみると、彼ら二人は私たちの反応を見ている。
 それならば彼らの見ている前で食べて見せずばなるまい!
 私はこのサクランボが衛生的かなとちょっと心配だったが、数粒のサクランボを食べてしまった。
 食べ終わるのを見て、彼らはホッとしたようだった。

ギョレメのバスターミナル。息子の記念写真を撮った。今日の観光がすばらしかったので満足したのか写真を撮るのを嫌がらなかった。

長距離バスは一階がトランクルームになっている。

夕暮れのバス乗り場。バックパッカーで賑わっている。アジア系も散見される。

長距離バスは庶民の足

夜行バスの旅だからこのいでたち。
格好悪いが思案の末に決めた服装だ。

夕暮れ時、三角帽子の岩山の影が伸びる。

午後七時、夜行バスの出発もピークを過ぎた。

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