博物館にはギリシア時代、ローマ時代のたくさんの彫像・墓碑・石棺があった。 
     私たちが入館した1時ごろはまさに一日のうちで一番暑い時間だ。 
     最初私たちは樹木の多い庭で休んだ。 
    見下ろした一段低くなっている地面にはたくさんの大理石の石材があり、それらはみんな古代遺跡から運んでこられたものだ。ひとつひとつ違った形でおもしろい。 
    
 10分ぐらいの休憩の後に私は息子をうながして入館した。 
     考古学博物館はたくさんの円柱を使ったローマ神殿様式である。天井は高く、天井の装飾も芸術的だ。 
     私たちが入館した第一展示室には、現代人よりも背の高い古代の神々の彫刻がたくさんあった。 
     団体観光客はおらず、2、3組の家族が見ていた。 
     展示室は非常に大きく、その数も多い。 
     しかし、監視員はいない。 
     一人の男の子が手を伸ばして彫像の一つによじ登ろうとしていた。 
     母親はそばにいる。が止めようとしない。 
     わたしはとても困惑して、すぐにその場を離れた。私たちはトルコ語が話せないのでその子の行動を止めることができないからである。 
    
 私は手を止めることなく写真を撮り続けた。 
    値段が高くて、かつまたとても重たい展示品目録を買うのがいやだったからだ。 
     展示室は空調が効いていない。しかし、庭に向いており外から吹き込んでくる風が心地よかった。 
     だが、ローマ皇帝の彫像を通り過ぎたその奥は窓がない。 
     天井が高いとはいえ室内は暗く、空気はむっとしていた。 
     珍しいものではないかのように無造作に展示してある大理石のどの彫刻でも、日本に運んでいって展示したら、どれもこれも国宝レベルの扱いを受けるだろう。 
     私は非常な興味を持っていたが、息子には面白くないようで、我慢できなかった。 
     そして突然言った、「早く行こう! 僕はもう見ていられないよ」 
     息子はひとりで離れていく。 
     私は叫んだ。 
     「行っては駄目! 来なさい!」 
     息子が急に方向を変えたので、床の石畳の上で息子のスニーカーが耳障りな大きな音と振動を発した。 
     どこで監視していたのだろう、二人の博物館の警備員が血相を変えてやって来た。 
     しかし異常の無いことを確認すると黙って帰って行った。 
      
     私は本当にびっくりした。 
     私は子供を叱りつけたいと思ったが、怒りをおさえた。